IFRSと監査役

昨日、日本監査役協会の会計基礎講座で「IFRSと監査役-企業経営への影響を中心としてー」を、青山学院大学大学院教授 橋本尚氏よりお聞きした。

IFRSは欧米が、欧米基準で決めており日本は蚊帳の外、だと思っていたが、意外や意外
IFRS財団の評議員議長は元イタリア経済財務大臣のトマソ氏だが、副議長は日本の藤沼亜起氏だそうだ。
■藤沼氏プロフィール
・1969年中央大学商学部卒業、堀江・森田共同監査事務所→アーサーヤング公認会計士共同事務所→監査法人朝日新和会計社→太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)
・2008年4月中央大学大学院戦略経営研究科特任教授に就任。その他として、株式会社東京証券取引所グループ取締役及び同取引所自主規制法人理事、野村ホールディングス株式会社取締役、住友商事株式会社監査役、武田薬品工業株式会社監査役、住友生命保険相互会社取締役
・日本公認会計士協会理事、常務理事、理事(Advisor to President)を経て2004年〜2007年の3年間会長を務める。現在は日本公認会計士協会相談役。
・国際会計士連盟(IFAC)理事、副会長を経て2000年〜2002年の2年半の期間、IFAC会長を務める。
・現在、金融庁企業会計審議会臨時委員、財団法人財務会計基準機構の評議会議長などを務める。
・H22.5~H25国際会計基準委員会財団(IASCF)評議員会副議長

島崎憲明(社団法人日本経済団体連合会 企業会計部会長、住友商事株式会社 特別顧問)も評議員会理事を務めるなど、22名の定員のうち2名が日本人

IFRSの基準を設定しているIASB(国際会計基準審議会)の議長は元英国会計基準審議会議長のデイビット卿で来年6月にオランダ金融市場庁長官のハンス氏に代わるが、日本からも中央監査法人の山田辰巳氏が15名の理事の中に入っている。
また、IASBのアジア・オセアニア支部を東京(元経団連会館の場所)に置くことも内定したそうだ。

体制は万全になっている。後は日本の中で充分に議論し、日本のものづくり産業が生き残っていける会計基準作りを目指して頂きたいものだ。

IFRSによって細則主義から原則主義に移行すると、必要なスキルは会計基準の理解80%→20%、取引実態の把握15%→30%、実務適応能力5%→50%と大きく変る。
本店と現場、経理部門と技術部門や営業部門などが一体になって取組む必要があるが、会社全体が一体になって取組んでいる日本にとって、ある意味で有利かもしれない。
ただ、最近は分業化や本社集中化が進んでいるために、その流れとは逆の動きをする必要があるのかもしれない。

今年IFRSを任意適用された勇気ある会社「日本電波工業」によると、
連結財務諸表本表のページ数は44%減少したが、注記は逆に44%増えたそうだ。
つまり、役所指導による護送船団方式から、各企業が自ら根拠を示して合理性、妥当性を示す事が求められている。

アメリカでは今年度決算からの任意適用が撤回されスケジュールが不透明なところもありますが、日本においては米国基準による連結財務諸表は2016年3月末までとされたのは、わが国がIFRSの強制適用に向けて後戻りはしないと言う意思表明だそうです。
企業会計審議会での会計基準の見直しも着々と進められ、既成事実化しています。
企業に大きな影響が出るIFRSの基準化について、きちんと意見を出すと共に、IFRSに対応して企業戦略を検討するべく対応する(監査役としては会社がきちんと取組んでいるか確認する)必要があるかと思います。
なかなか重いが重要な変化です。

IFRSはどこへ行くのか

恐縮ですが、月間監査役に、神奈川大学田中教授の「国際会計基準はどこへ行くのか」への書評を掲載して頂きました。
IFRSの導入に向けて日本は突き進んでいるが、今一度立ち止まって主体的に考え、対応しよう、という田中先生の考えに全面的に賛同し、書かせて頂いたものです。
また、昨日は日本監査役協会の定例講演会で、日経ビジネス副編集長磯山友幸氏の「国際会計基準の舞台裏」を聞かせて頂きました。

会計は、どうあるべきかと言う大儀で議論されていると思いますが、その背景は各国の抱える状況と思惑が渦巻いています。
田中先生は、イギリス・アメリカはもの作りをしなくなったため、もの作りの結果としての尺度である当期純利益の表示を外そうとしている、とおっしゃいます。
磯山副編集長は、債権国はM&Aに活かす為に時価評価で表示することを求め、債務国は資産価値の上下によって配当を要求されたり債務不履行になったりするため簿価主義を求めると指摘される。
アメリカは債権国から債務国になっているが、日本や中国がアメリカ国債を買うため、その資金を活用して擬似債権国となって本来債権国が持つ「格付け」決定権を保有している。という指摘は、世界経済の不安定性を示しています。

日本は、どうあるべきかを産学官で大いに議論し、大いに主張していかなければ、世界の波に飲み込まれてしまいます。
しかし、政治状況を見ると、IFRSだけでなくいろいろな課題について政府が独断的に決めて対外的に発表されるのだけれど、何故そう決定したのかが不透明で国民的合意が形成されていないため、大きな混乱を引き起こしています。
今、何事に付けても、立ち止まって、オープンに議論することが、大いに求められます。

国際会計基準(IFRS)に関する誤解

「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」が4月23日に金融庁から発表された。
IFRSに関しては、一部に「誤解」を招く情報が流布されているのではないかとの指摘があることから、「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」を公表し理解が得られるよう説明することといたしました。
といった趣旨だが、果たして誤解で済んだのでしょうか。

【監査人の対応が厳しくなるのではないか】
誤解 IFRSになると、プリンシプル・ベース(原則主義)になるので、監査人の言うとおりにしなければ監査意見をもらえなくなる。
実際 IFRSになったからといって、監査人の対応が厳しくなるわけではない。
○ プリンシプル・ベースのIFRSに基づく財務諸表を作成できる体制を整備し、会計処理の考え方等を自ら説明することが重要。
私見 日本ではお上が決めた基準に従って会計処理するのが慣わしかと思うので、自ら説明するのは企業文化や思考回路を変えるほど大変ではないか。

【IFRSでは、利益の表示が当期純利益から包括利益のみに変わるのではないか】
誤解 IFRSでは、年度の業績把握の指標として多く用いられている当期純利益が用いられなくなり、包括利益のみに変わる。
実際 IFRSでも、当期純利益が表示され、業績把握のために重要なものであることに変わりはない。
○ IFRSによる包括利益計算書では、当期純利益及び当期の純資産額(増資等資本取引を除く)の変動を表す包括利益の双方が表示されるが、当期純利益が業績把握のために重要な指標であることに変わりはない。
私見 当期純利益の表示をやめるという話も聞くため、金融庁にはぜひ残すよう主張して頂きたい。

【工事進行基準は認められなくなるのか。】
○現在、収益の認識に係るIFRSの見直しが進められているが、•工事進行基準については、複数の指標を総合的に勘案して、財やサービスに対する支配が工事の進捗に合わせて移転しているのであれば、工事進行基準が適用できる方向で検討中。
私見 現在進行基準を適用している土木建築工事やシステム開発が途中段階で「支配が移転している」とは考えにくく、適用出来なくなると考えるべきではないか。

【減価償却の償却方法は、定率法が全く使えなくなるのではないか】
誤解 IFRSになると、有形固定資産の償却方法は、定率法は全く使えなくなり、見直しが必要。
実際 IFRSは、減価償却は資産の償却可能価額を耐用年数にわたって規則的に配分するものであり、償却方法は、将来的な資産の経済的便益の消費パターンを反映したものを採用しなければならないとされている。定率法と定額法との間に優劣はない。
【IAS 第16号(有形固定資産)62項】資産の償却可能価額を耐用年数にわたって規則的に配分するために、種々の減価償却方法が用いられる。そうした方法には、定額法、定率法及び生産高比例法がある。定額法では、資産の残存価額が変化しない場合には、耐用年数にわたり一定額の費用が計上されることになる。定率法では、耐用年数にわたり、逓減的な費用が計上されることになる。生産高比例法では、予測される使用や生産高に応じて費用が計上されることになる。企業は資産に具現化された将来の経済的便益の予測消費パターンを最も近く反映している方法を選択する。適用される方法は、将来の経済的便益の予測消費パターンに変更がない限り、毎期継続して適用される。
私見 つまり、実際に使われている状態に応じた償却にしなさい、と言うことであり、均等に使う設備ならば定額法でしか説明できないのではないだろうか。

田中教授にお会いする

神奈川大学に田中教授をお訪ねする。

「新任監査役のための分かりやすい会計講座」について、高度な内容が分かりやすく書かれており、北陸監査実務部会で大層評価が高い、という話をすると、
・分かりにくく書くことで専門家だという評価になると思っている先生が多いが、分かりやすく書くと、書いた人の実力もよくわかり、実は大変だ。
・そのままコピーされて発表されることもあったので、柴田連三郎や司馬遼太郎の文体を研究し、さらに分かりやすくなるように書くことが自分の文体となっている。
と、分かりやすくするために大変な努力と工夫をされているようです。

IFRSの動きについては次の驚くべき状況を教えて頂きました。
・イギリスが主導して制度を作っているが、フランスのサルコジ大統領は反対している。ドイツも否定的。
・アメリカの会計制度を決定するのは国会議員(上院・下院)だが、かれらは国際会計基準を採用されると、影響力がなくなるので、否定的になると考えられる。実際、2年後の導入決定は後ろ送りされそうだ。
・日本は連結会計も個別会計も公開しているが、欧米では連結だけ公開している。
・IFRSが採用されたとしても欧米で適用されるのは連結に対してだけであり、今後とも個別会計は各国独自の会計基準で処理され、株主以外には公開されない。(個別を公開しているのは日本だけ)

そのほか
・子会社は親会社に実質コントロールされているのに、上場するのは意味がなく、外国では子会社は100%が当たり前。
・4半期決算を強制されたため、アメリカでは株主に毎回グッドニュースを発表しようと、企業買収と売却を繰り返している。その利益を計上するために、のれん代は償却しない、などと言っている。非常に危険な動き。
・欧米の制度を議論せずに単純に受け入れるのではなく、日本の制度について議論し守っていくことも必要。
・日本は一度方向性を決めたら状況が変わっても突き進む傾向があるが、(マニュフェストに描いたからとか、IFRSの採用を決めたからとか)、きちんと議論して「立ち止まる勇気」も持つ必要がある。
・株主も3年以上売らない人にのみ保有頂く仕組みも、考えられる。
などなど分かりやすく教えて頂きました。

先生の新刊本「会計データの読み方・活かし方」を頂戴し、感謝しております。
今後ともご指導と、日本の会計制度の舵取りを、よろしくお願いいたします。

IFRS  包括利益

今朝(H21.12.4)の日経新聞の1面に、企業会計基準委員会が「包括利益」開示 来期から義務化 とある。
12月下旬にも公開草案をまとめ、来年3月までに最終的な基準を固める。そうです。

エーーーー!!!!来期ってのは来年度の決算からですか?
日本は2012年にIFRSを適用するかどうか決めるのではなかったのですか。
既成事実化してしまうのでしょうか。

同じ日経新聞の15面に米国会計基準を採用する主要企業の純利益と包括利益の比較が出ています。(2008年度 億円)

 包括利益純利益
NTTドコモ

4,057

4,718

キャノン

▲183

3,091

三菱商事

▲3,849

3,699

パナソニック

▲7,258

▲3,789

トヨタ

▲13,035

▲4,369


すごい結果ですねー。
三菱商事は3000億円以上の黒字が3000億円以上の赤字と逆転しています。
トヨタは赤字が9000億円も膨らんでいます。
これでは企業は怖くて株を持てませんね。
個別会計と連結会計の違いも、とんでもない事になり、株主が理解できないばかりでなく、監査役も大変監査しにくい状況になるのでは、と大いに懸念します。

テーマ : ビジネス
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プロフィール

新米監査役

Author:新米監査役
常勤監査役を7年間勤めさせて頂きましたが、平成28年6月の株主総会で退任しました。
監査役として悩み検討したことを「監査役の覚悟」を7人の共著で出版させて頂き、感謝しております。
なお、現在は某社の非常勤社外取締役と某校の非常勤監事を務めており、経営のあり方について考える立場にある事、「監査役の覚悟」で「新米監査役のつぶやき」管理人と自己紹介している事から、このブログを継続させて頂きます。
ブレーキはより速く走るためにある、とシュンペーターが言ったように、企業の永続的発展のために、監査・監督について、今後も考えていきたいと思います。
ご指導の程どうぞよろしくお願いします。

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