監査役の覚悟5 社内調査
そのためには、会計に関する専門知識と的確な監査手法を知っておく必要がありますが、新米監査役は監査手法についての専門家ではありません。
日本監査役協会の講習を受けて勉強したり、日本内部監査協会のCIA(公認内部監査人)の資格取得をすることは非常に有効と思われますが、急場の役には立つのは難しい。
自分で出来ない事は、取締役の協力を得て社内専門部門の力を借りる、内部監査部門の協力を依頼する、会計監査人に調査を依頼する、弁護士に相談する、などなど専門家の力を結集するのが一番と思われます。
まず最初は、関係箇所との協力関係を築くことが求められます。
調査の結果、「取締役が不正の行為をし、若しくは行為をする恐れがあると認めるときは」会社法382条に基づき遅滞なく取締役会に報告し、取締役が会社法355条に基づき会社のため忠実に職務を行うよう、是正を求めていく事になります。
しかし、会社ぐるみで不正が行われている場合は、
・証拠は巧妙に隠蔽され、尻尾はなかなか掴めない。
・取締役会で質問しても、「適正に処理されている」などと具体的な回答が得られない。
・現場調査や子会社調査を要請しても、拒否され、実態が分からない。
・不都合な点を指摘されると、威嚇され、脅され、強いプレッシャーを掛けられる。
のが実態だと思われます。
そういった場合は、「適正な監査が出来なかった」という監査報告を事業報告に記載し、株主総会で報告する事になるのでしょうか。
しかし、曖昧なままの指摘は、逆に監査役の任務懈怠という責任が問われるリスクもあります。
証拠が見つからないのだから、「特に指摘すべき重大な事項はなかった。」と報告しておくのが一番無難なのかも知れませんが、問題を先延ばしするに過ぎません。
いずれにせよ辛い選択です。
「会計不正」浜田康氏著 においても、
不正な経理を行う会社の場合は、信頼関係が成立していると思っている相手が監査人をだましていることが多い。
「監査人から不正な行動は見えにくいが、不正の行為者からは監査人の挙動は丸見え」という不正の行為者との非対称性により、不正を見逃しやすい
とあり、不正の噂があっても、適正な調査を行うことはなかなか困難なようです。
参考
会社法355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
会社法381条2 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
会社法382条 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。