監査役の覚悟23 監査役の有効性

 監査役は株主総会の決議によって選任され、取締役の職務執行を監査します。
 16世紀の大航海時代において出資者に決算の適正性を立証するため監査官が航海に同行し船長を監視し、日本の江戸時代においても大目付が大名を監視したように、不正がないか監視し不正があれば報告するのが監査役の役割です。
 監査活動によって、従業員の過失や不正を発見した時は、それらを正す事によって会社の業績も上がるでしょうから、それを報告し正す事は会社経営陣にとっても非常に喜ばれることです。
 しかし、経営者自身の不正を発見した場合には、状況は大きく違ってきます。
 監査役は株主総会で選任されたといっても実質的には経営者により指名され、会社から給料を頂く立場として、雇用者である経営者を監視し意見を言うのは大変勇気のいることです。
 そもそも故意に不正を行っている経営者は、監査役に不正を諌められて喜ぶはずがなく、蓋をして何も無かった事にしてくれる事を期待するでしょう。
 それでもあえて報告するときには、大目付が殿の行状について意見する時は切腹覚悟で望んだように、監査役も辞任覚悟で対処する事になります。
 正しい事だとしても組合が擁護してくれるわけでもなく、監査役の給料は少し良いと言っても辞めて困らない蓄積がある訳でもなく、この年になって再就職出来る見込みも無く、古くからの会社の友人と袂を分かつ事になる、などなどを切り捨てて路頭に迷うことを覚悟しなければいけないでしょう。
 会社にとっても、監査役に指摘されなければ平穏無事に過ごせる所を、世間に知られて会社の信用を失墜したり、上場廃止など会社存続に関わる事態を招いたりと、大変な状況になりかねません。
 よって、経営者に不正があったとしても、監査活動においても発見出来ない方が監査役としては安穏に過ごせます。また、不正を発見したとしても、それが発覚しないと想定される場合には、不正を見なかった事にしよう、という誘惑に駆られます。

 一昔前だったら、見て見ぬ振りをすることが望まれたかも知れません。
 しかし、全員がボスの方を向いて一丸となって取組んだ村社会は既に崩壊し、内部の問題を外に言うことは恥だと思われていた文化も内部通報の勧めによって言わないことが悪とされ、インターネットや携帯電話によって社外への通報が格段に簡単になっている状況において、監査役に発見された不正が世間に知られるのは時間の問題だと考えた方が良いでしょう。
 そして、不正が発覚したときに、監査役が発見出来なかった場合や発見していたのに報告していなかった場合は任務懈怠に問われ、損害賠償を問われかねません。
 そういった前提の時に守るべきものは何か。言うまでも無く、自分を指名してくれた経営者ではなく、会社の存続です。大目付が殿を諌めたのも、お家大事であり、一刻も早く膿を出しきって不正を正し、会社経営を健全化しなければいけない。
 そう頭の中では思うのですが、実際に有事に遭遇した時に経営者と対峙して毅然と対処できるのだろうか、人間としての生き方を問われる分水嶺であり、まさに監査役としての覚悟が問われる場面ですが、自分自身のこととして考えると全く自信がありません。
 私のような軟弱な監査役が有事に機能するためには何が必要か、もうしばらく考えて見ます。

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新米監査役

Author:新米監査役
常勤監査役を7年間勤めさせて頂きましたが、平成28年6月の株主総会で退任しました。
監査役として悩み検討したことを「監査役の覚悟」を7人の共著で出版させて頂き、感謝しております。
なお、現在は某社の非常勤社外取締役と某校の非常勤監事を務めており、経営のあり方について考える立場にある事、「監査役の覚悟」で「新米監査役のつぶやき」管理人と自己紹介している事から、このブログを継続させて頂きます。
ブレーキはより速く走るためにある、とシュンペーターが言ったように、企業の永続的発展のために、監査・監督について、今後も考えていきたいと思います。
ご指導の程どうぞよろしくお願いします。

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