監査役とは何か  九州大学西山教授への質問

月刊監査役8月号に、九州大学の西山教授が
『監査役とは何か 第1回私見、代替的経営機関説について』
という連載講話を開始された。

文中で、次の記述に非常に共感した。
・職業倫理上責任を負えない様な任務を引き受けるべきではない。
・監査役には人事権はないので、「監督」という語は適切ではなく、「監視」という観念を用いて説明する。
・監査役は、まさに自らの判断(裁量)によって是正の方法と範囲を考える事になる。
・経営の「是正」こそが監査役の主たる任務である。
・監査役の有用性は、監査役自身の強い使命感に依存せざるを得ない。

一方で、先生の書かれている事が素晴らしいと他社の監査役に話していると、新任監査役への講演で話された内容に、先生の記述との違和感を覚えたという話があったので、大変失礼かとは思ったが、先生にメールした。

先生の講演内容
①役職員が監査役の質問に答えなかったり、協力的で無いのは、監査役のコミュニケーション能力に問題があるからであり、反省が必要である。
②日頃、社長とは良好な人間関係を作るべきであり、 社長と仲が良いと知れば、役職員は皆、監査役の云う事を聞くはず。
③法律上の権限があるからと言って、質問に答えろとか云ってはいけない。権限は人間的なものであり人の心を重視し、説得的な対話をすべきである。
④監査役が任務懈怠で訴えられる事はまず無いので安心して欲しい。
⑤次は社長になると云う希望を捨てないこと!


私からの質問
①については、確かにコミュニケーション能力が大前提だと思います。
しかし、中小の会社、特にワンマンの経営者の下におられる監査役のご苦労は大変な状況であり、監査役のコミュニケーション能力以前の問題で悩んでいる場合も多いようにお聞きします。
②の人間関係は大切ですが、社長の監視が監査役として一番の重要課題ではないかと思いますので、ほどほどの距離感を保つべきかと思います。ましてや社長との関係を強調して圧力を掛けるべきではありませんし、逆効果にもなりかねません。
③は①と同じです。
④は、先生が言われた趣旨は全く違うのではないかと思います。先生はあくまでも「監査役は強い使命感を持って経営を是正すべし」というお考えだと思いますが。
⑤は監査役に指名されてがっかりしている者を慰めてやろうとのことかと思いますが(私自身指名されてびっくりしました)、新任監査役研修に参加する頃には少しは勉強して、使命も誇りも感じている頃だと思いますので、執行側に戻る事が夢だと言って頂きたくないなー、と思います。

すると、次の日には返事を頂きました。
ご質問のところは、ごもっともです。
時間の限られた講演の中で、自分の見解を遺漏なく表現することに未だに上達していないようです。
誤解があれば、申し訳なく思います。
①と③について
監査役には広範な権限(とくに調査権)がありますが、命令的に調査を行い、真実を解明することは監査役の使命ではないと思っています。
命令で人が簡単に口を開く社会でないと思いますし、また、そもそも真実というもの自体が相対的なものですから、監査役としては、真実の解明という よりも、社内の人心の有り様を感得することに調査のポイントがあると思っております。そのためにも、丁寧な粘り強い対話による調査が求められま す。対話というのはむずかしく、日々の研究や心配りが大切であるという趣旨で発言しております。また、中小規模の会社でワンマンな社長さんのおら れるところは大変だと思いますが、社会的・法律的に見て、会社の経営陣の中で、社長の部下ではないと位置づけられているのは監査役だけだというこ とを認識していただきたいのです。好むと好まざるとを問わず、そのように考えられていると言うことを認識していただき、使命感をもっていただきた いのです。大上段から反省しろなどと申しているわけではありませんので、ご了解ください。

②について
実質的な意味で社長と監査役のみが独任制です。つまり自分の判断で動ける立場です。しかし、組織の長でない監査役だからこそ、工夫と努力が必要で す。社長とのコミュニケーションもその1つでありましょう。いたずらに対立の構図を描いてしまうのは百害あって一利なしと思います。社長に対する 調査権もあるのだという気組みをもつことと、社長の協力を得て、会社の実情を把握しようとする気遣いとは矛盾しないと思います。虎の威を刈る・・ という意味ではありませんので、ご了解ください。

④監査役は強い使命感を持って、全力で経営の是正に心を配るべきであるという考えに一点の曇りもありません。ただ、数分の時間の中で、監査役の法 律上の過失責任を説明する際には、法律プロパーの話にならざるをえません。裁判所の中で、監査役の過失責任を立証するのはとても困難であると言う ことを申し上げているだけです。監査役を軽んじているわけではないので、ご了解ください。

⑤監査役は監査人ではなく、経営者であると考えています。しかも、会社の進路を危うくしないため、会社を代表する視点から、会社全体を見渡し、大局的な経営判断できる資質、つまりは社長の資質を必要とすると考えています。その意味で、監査役としての研鑽は、社長となるための研鑽と相通ずる ものがあると考えています。執行側、つまり社長の部下の戻ることをお勧めしているわけではありません。むしろ、社長と同格の意識で、社長と同じ経 営者の道を歩むのだという気構えを持っていただきたいのです。そのためにこそ、つぎは社長になると考えていただきたいのです。監査役としての立場 や努力を否定しようとするものでないことをご了解ください。


西山教授の、監査役への叱咤激励に勇気付けられると共に、まだまだ至らぬ現状に反省させられるばかりです。
今回は第1回のご講話という事で、今後のご指導にさらに学ばせて頂きたいと思います。
ありがとうございました。

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私は54歳で今年4年目の監査役です。西山先生のお話は7月に東京で受講しました。私も「社長と監査役の関係」については、一定の距離を置いた上でコミュニケーションを図るようにしています。
社長とは礼節や敬意をもって接しますが、独立することにしています。それは監査役として状況判断と調査、意見形成と発言が周囲の雰囲気、視線、圧力に負けるのがこわいからです。私は監査役に就任当時から「本当に監査役は会社に必要なのだろうか」をもち続けて活動をしてきました。その結果、こういう関係が最も自分に嘘がないし、監査役の役割を全うできると思うようになりました。そして、今回の西山先生の「監査役は社長の部下ではない。社長と監査役だけが自分で考えて自分で判断できる」の激励でその姿勢は決定的になりました。

こういう考えをもつようになった過程で、いくつか発見したことがありますので、同志の一人として述べたいと思います。
①社長が執行の会社代表者なら、監査役は監査の会社代表者であること。
②社長が経営の本隊なら、監査役は経営の別動隊として動くこと。
③社長が右から左へと動くなら、監査役は左から右へと動いてみること。
④監査役は時には蟻となって土をみることもあれば、時には鳥となって大地を鳥瞰することもあること。

現在、日本の監査役制度については、国際比較の観点からもいろいろ意見がありますが、私は「日本固有の文化、良識として、守り育てていくべき制度」であるとの考えです。これまでも、人の歩みが歴史(制度)を作ってきたのと同じで、私たち監査役一人一人の活動が、まさに監査役制度を作っていくのだと考えています。

プロフィール

新米監査役

Author:新米監査役
常勤監査役を7年間勤めさせて頂きましたが、平成28年6月の株主総会で退任しました。
監査役として悩み検討したことを「監査役の覚悟」を7人の共著で出版させて頂き、感謝しております。
なお、現在は某社の非常勤社外取締役と某校の非常勤監事を務めており、経営のあり方について考える立場にある事、「監査役の覚悟」で「新米監査役のつぶやき」管理人と自己紹介している事から、このブログを継続させて頂きます。
ブレーキはより速く走るためにある、とシュンペーターが言ったように、企業の永続的発展のために、監査・監督について、今後も考えていきたいと思います。
ご指導の程どうぞよろしくお願いします。

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